Day0 「知る悲しみ」

 

 桜の開花が発表されてから妙に寒い日が続き、やっと満開になった週末の、その翌日

出発前に近所の川沿いに桜を見に行ってみた。その日は気温も20度を超えるほどまで上がり、ピンクの桜の花が作り出す木陰を通ると、全身にふと気持ちの良い風を受ける。「春爛漫」という言葉は、きっとこんな陽気のもとで生まれたんじゃなかろうか、なんて想像を無意識にする。自転車で5分程度のところに、こんなにも気の休まる場所があるのか…。

 

 まったく、片道20数時間もかかるところへわざわざ行く必要があるのだろうか。自転車を漕ぎつつ、そんな、旅の出発前には考えるべくもないことが頭をかすめる。もう、ほんと、まったく…。

 

 

 

 

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  海外に行く際の「ワクワク感」というものが、昔より薄くなってしまったのは事実かもしれない。昼前に家に帰ってから、のそのそと荷造りの続きを始める。フライトは夕方だ。昼過ぎに家を出れば間に合わないことはない。荷物がギリギリまでまとまらなくても焦らなくなった。いや、なってしまった、と言った方が正しいのかもしれない。

 

 

 

 開高健の言葉を思い出す。「知る悲しみ」。知識や経験は、人生に「知る悲しみ」をもたらす。まさに、私は一種の「知る悲しみ」を知ってしまったのかもしれない。ただ、こうも思う。「知る悲しみ」を知る人生の方が、味があって良いのではなかろうか、とも。

 

 

 

 

 成田空港に着いた。出発の2時間前。余裕だ。案内板で、自分の乗るフライトのゲート番号を確認する。同時に、フライトの出発時間が10分程度早まることを確認。中東系航空会社はなぜかいつもこうだ。案内板に書かれた、数々の聞いたこともない都市の名前にビビっていたあの頃、全てが冒険だったあの頃は終わったしまったようだ。パスポートコントロールを済ませ、迷うことなく、文字通りスムーズに、搭乗口まで到着。

 

 

 何か重大な決意を背負うわけでもなく、ただ重たいバックパックとある種の「悲しみ」を背負って、私はUAEアブダビ行きのエティハド航空機に乗り込んだ。

 

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