Day2 「始まりの音」

 

 

 飛行機から降り地面を踏んだ時、少しばかり感慨深いものがあった。窮屈な機内から解放されたこと、だけが理由ではない。自分は今、アフリカ大陸に立っているのだ。小さい頃、自分は一生行くこともないだろうと勝手に思い込んでいた、あのアフリカ大陸に。思えば、ユーラシア大陸以外を旅するのも初めてだった。成田ではあれだけ冷めてしまっていた気持ちも、ふつふつと盛り上がってくるのがわかる。モロッコは朝の9時になろうとしていた。

 

 

 

 

 

 カサブランカに用はなく、この日は3〜4時間ほどのところにあるマラケシュという街に泊まることにしていた。空港の出口に向かって行くと、旅行かばんを持った東洋人の若い男性がいるのが見えた。確か成田でも見かけたような気がしたから、おそらくは日本人だろう。声をかけると、自分より一つ年下の日本人旅行者だった。ちょうどマラケシュまで行くというので、一緒に向かうことにした。マラケシュまでは、バスと列車で行く2通りがあるということだった。私はどちらで行こうか無計画で来てしまったが、彼が列車で行くというので、まずは空港駅から列車に乗ることにした。

 

 

 

 

 

 空港駅の切符売り場付近で、私たちより少し年上の日本人女性2人と合流した。それぞれ一人旅で、私たちと同じ便で日本から到着したのだという。彼女たちもマラケシュへ向かうというので、結局計4人の日本人で行動することとなった。

 

 

 

 

 大きなお札だと買えないとかなんとかでやや列車の切符を買うのにてこずるも、10時半頃発の列車に乗り込むことができた。列車は割に時間通り出発した。カサブランカ空港駅から約30分ほどで、カサボヤジャー駅という、カサブランカ中心地近くの駅に着いた。ここでマラケシュ行きに乗り換える必要があるのだという。次の列車まで1時間ほどあったので、駅の外に出て昼食をとることにした。昼近くなり、太陽の照りつけが強くなってきた。駅前の小さなカフェで、モロッコでの記念すべき第一食目、とは言ってもサンドウィッチをコーヒーで流し込み、再び駅からマラケシュ行きへと乗り込んだ。

 

 

 

 

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 買った席種は安い2等座席で、車両はすでに地元の人で一杯だった。当然、座れる席はなく、私たちはそれぞれ重いバッグを持って立つことになった。3時間ほどかかるということだったので、このまま立ちっぱなしだと辛いなとは思いつつも、同様に立っているモロッコ人もたくさんおり座れる気配がしなかった。

 

 

 

 

 

 列車が走り始めて10分ほど経った頃だったか。車両の中ほどの席で一人のモロッコ人のおばさんが立ちあがった。トイレにでも行くのだろうか。すると、こちらに向かって手招きをし始めた。

 

 

「次で降りるから!どうぞ座って!」と言ったかどうかはわからないが、とにかく私たちに席を譲ってくれようとしていた。まわりには立っている地元の方がたくさんいる。当然断ったが、近くにいたおじいさんが「おい、座りたまえ」とばかりに、一緒に手招きを始めた。申し訳なかったが、一人座らせてもらった。その後、駅に止まるたびに少しずつ席が空くと、「おい、こっちが空いたぞ!」「こっちもだ!早く来い!」といった調子で、色々なところから声がかかった。最終的には、4人席に私たち全員が落ち着かせてもらった。

 

 

 

 

 

 席を確保できてゆっくりと窓の外の眺めを楽しんでいると、今度は隣の席の陽気な男性が声をかけてきた。パソコンを操作しながら、何やら音楽を流していた。彼は少し英語を話した。「どこから?」「日本ですよ」「おお、それはいい。ところで、俺の生まれ故郷は海の近くで最高なんだぜ」「太陽、海、うまいシーフード。これがあれば何もいらないさ。」「〇〇にぜひ来てくれよ!」。英語は必ずしもうまくはないが、懸命に地元のよさを話そうとしてくれる。肝心の街の名前が聞き取れなかったが。

 

 

 

 

 

いわゆる旅人はこういう心暖まるものを求めて旅をしているんだよな...」。彼との会話を楽しみながら、私のややひねくれた感受性は、ふと理屈っぽい分析をしだす。だが、この車中は事実楽しかったし、モロッコ人がなんとなく好きになった。ここは素直に心暖まろうか。カサブランカマラケシュ間の車窓の景色は、のどかで、良かった。

 

 

 

 

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 17時近くになり、ようやく列車はマラケシュに着いた。マラケシュ駅はWi-Fiもサクサクと繋がる近代的な駅で、イメージとは違った。その日は日本人宿に泊まることにした。宿に荷物を置き、シャワーを浴びてから街歩きをすることにした。閑散期であるためか、宿には他に2人の日本人しか泊まっていなかった。彼ら2人も合流して、計6人でマラケシュの旧市街を散策した。

 

 

 

 

 マラケシュ旧市街は、人のうごめきで満たされていた。「人間の音」が溢れていた。歩いていると、「ニホンジン?」「コンニチハ!」「サバクツアー、ドウ?」と、どんどん怪しげな客引きがまとわりついてくる。そうそう、これこれ。誘いに乗る気はさらさらなかったが、わざと興味を持ったふりをして客引きらとの会話を楽しんだ。その後も、石を投げれば客引きに当たるとばかりに、どんどん絡んでくる。この絡みをもって、モロッコは「世界三大うざい国」の一つに認定されてしまったのかもしれないが、私には心地が良かった。彼らのじっとりとした声がまるで素晴らしいハーモニーのように、私の身体に染み渡る。

 

 

 

 

 フナ広場という、メインの広場に展開される屋台街で夕食をとることにした。こちらも様々な屋台に勧誘を受けた挙句、適当に誘われた一軒の汚いテーブルについた。肉が食べたかったので、私たちは羊肉のフルコースといってもいいほど、様々な羊の部位を注文した。イスラム教国ゆえお酒はメニューになく、モロッコ名物・ハーブティーで旅先での出会いに乾杯した。

 

 

 

 

 

 

 

 安さゆえにについ頼み過ぎてしまった。3分の2 ほどを食べると、私たちは満足してきてしまった。申し訳ない気持ちで屋台の店主に「ごちそうさま」と詫び、会計を済ませて席を立つと数人の男たちが私たちのテーブルに群がってきた。こんなに店員いたっけな。私たちが完全にテーブルを離れた。すると、その男たちが一瞬のうちに我々の残飯を取り合うように持って行ったのだ。私たちはその突然の出来事に、びっくりするとも笑うともない表情で顔を見合わせてしまった。「いよいよ旅が始まったな...」。私は心の中で、静かに思った。

 

 

 

 

 

 

 

 夕食後、カフェで軽くお茶をして宿に帰った。マラケシュで1泊して、明日はメルズーガという砂漠の町へ向かう。

 

 

 

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