Day4 「言葉なんかいらない」

 

 

 昨夜は暗闇でよく見えなかったが、私が寝たテントの周囲には、同じく旅行者用のテントがいくつか設置されていた。隣のテントに、日本人のファミリーが泊まっていた。小学生の男の子を連れた夫婦だった。アフリカの別の国に住むそのファミリーは、イースター休暇で1週間ほどモロッコに来ているという。「小学生の頃にサハラ砂漠に来れるなんて羨ましいなあ!」。笑い合いながら、出発までその家族との会話を楽しんだ。日本人は、思った以上に世界に散らばっているし、どこへでも行くものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日、町からテントまで連れてきてくれたラクダ使いに先導され、ラクダに乗ってサハラ砂漠を行く。ツアーの内容によると、今日は砂漠を横断して、アルジェリアとの国境付近に住むベルベル人という先住民のお宅へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

朝日が昇りきり朝食を済ませた後、9時ごろに出発した。

 

 

 

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  ベルベル人の家までは、砂漠を横切って4時間ほどかかるのだという。ラクダに乗っているとはいえ、1時間も経つと暑さから体力を消耗してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂漠の中の景色は、それはもう、素晴らしかった。「美しい」なんて言葉が陳腐に聞こえてしまうほど、それはそれは、素晴らしかった。言葉で言い表せないという感動を腹の底から感じたのは、いつぶりだろう。

 

 

 

 

 

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 アスマンという名のそのラクダ使いはあまり英語を話さず、終始無言で私の乗るラクダを引いて歩く。途中、アスマンが歩きを止めた。「ちょっとこの辺で写真でもどうだ?」といった調子で写真を撮るジェスチャーをしながら、"picture"と連呼する。ああ、まあ、じゃあ撮るか、とラクダから降り、写真を撮ることにした。ラクダに乗りながらもたくさん写真を撮っていたのに、なんでわざわざラクダを止めてまで、写真を撮るように促すのだろう。

 

 ラクダを降りてアスマンの方をみると、なぜか私からどんどんと離れて行く。ついには見えないところまでいってしまった。どこへ行ってしまったんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 少しして彼が戻ってきた。「どこへ行ってたの?」。私がジャスチャーを用いて聞くと、やや照れ笑いを浮かべながら、ズボンを下ろす仕草をした。なあんだ。最初から「トイレしたいからちょっと待ってて」と言ってくれたらよかったのに。「なんだよー!」と私が笑いながらつっこむと、彼は恥ずかしそうにおどけた表情を見せた。無言で歩いていたため彼の人間性が全くわからなかったが、やっと人間的なものが見えた。この出来事を機に、私たちは打ち解けた。彼は、砂だらけになった袋からリンゴを1つ取り出し、笑顔で私にくれた。言葉なんかいらなかった...。

 

 

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 13時頃、ベルベル人ノマド(遊牧民)の家に着いた。荒野にぽつんと1軒だけ立っていた。地面を見ると、砂質は石のような粒の大きいものに変わっていた。昼食はタジン鍋をご馳走になった。

 

 

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 若いご夫婦に小学生ほどの男の子と赤ちゃんの女の子、それにおじいちゃんおばあちゃんという家族構成だった。やんちゃ坊主といった感じのその男の子はモハメッド君といった。8歳だという。彼がとにかく人懐こくて、この得体の知れぬ東洋からの旅行者の遊び相手となってくれた。

 

 

 

 

 

 

 積み木遊び、自転車遊び、ボール遊び。アフリカの太陽が照りつける下、いろいろな遊びをした。学校に通っている様子もないし、毎日毎日同じように遊んでいるのだろう。毎日ただ遊ぶだけで、暇を感じることはないのだろうか。ふとそんな疑問が頭をかすめたが、彼の遊び姿をみていると、暇を苦痛の一種と考えてしまう自分自身がなんだか情けなく思えてきてしまった。

 

 

 

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 休むこともなく、日が暮れるまで遊んだ。夜もタジン鍋をご馳走になった。空を見上げると、プラネタリウムのような星空が広がっていた。またしても、言葉では言い表せない光景だった。モロッコを言葉で説明するのは、少し難しい。いや、言葉なんかいらないのだ。モハメッド君は毎日この景色を見ているのか...。

 

 

 

 

 

 

 

 なんとなく砂っぽい床の上ではあったが、遊び疲れていたのか、夜はぐっすりと眠れた。