Day6 「万事、見にゃわからん」

 

 

 目を覚ますと、乗客たちが降りる準備を始めていた。GoogleMapで現在地を確認すると、間もなくフェズに着こうというところだった。時計はAM4時を指している。窓の外は真っ暗闇だった。

 バックパックを担いで、バスを降りた場所から100mほどのところにあるフェズ駅へと向かう。フェズの街は、暗い間は少し治安が悪いと聞いていた。日が昇るまで駅構内で待機することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 マラケシュ駅と同様、フェズ駅も近代的な駅で、Wi-Fiの速度も速かった。マラケシュを出発した前日からWi-Fi環境がなかったため、実に4日ぶりのネット環境である。LINEを開くと、様々な方面から安否を心配する連絡が来ていた。しまった...。砂漠に行くことを伝えていなかった。

4日ほど連絡をとらないだけでこんなにも心配されるとは。「まったく、信用してくれよな」とうそぶくも、少しばかり嬉しい気持ちもあった。

 

 

 

 

 

 

 駅構内で朝食を食べたり、久しぶりのネットサーフィンに夢中になっているうちに、日が昇り始めた。途中、ベンチの横に座っていたモロッコ人女性3人組がニコニコしながら英語で声をかけてきた。「どこ行きの電車に乗るの?」「いや、ただ時間を潰しているだけなんだ」「どうして?」「うーんと、ホテルのチェックイン時間がまだできないみたいで」「そんなはずはないわ。荷物くらいは預かってくれるはずよ。ホテルに電話してあげるわ!なんていうホテル?」。

いまのところ出会った、この「世界三大うざい国」・モロッコの人々はどこかフレンドリーで、良い印象を持っている。まさに、「万事、見にゃわからん」(坂本龍馬)である。

 

 

 

 

 

 

 8時前に駅を出発した。新市街にあるフェズ駅から宿のあるメディナ(旧市街)までは2kmほどある。バスを使うか悩んだが、歩いて行くことにした。途中、公園の横を通った際、地元の主婦達が公園のフェンスの周りにしゃがみこんで何やら作業をしているのがみえた。朝の掃除でもしているのだろうか。よく見ると、朝露に濡れたフェンスにくっつくカタツムリをとっていた。そういえば、マラケシュの屋台で茹でられたカタツムリが食用に売られているのを見た。今日の朝飯といったところだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宿に荷物を置いて、ひとしきり街を歩きまわった。フェズの街は、古都と呼ばれるにふさわしい、美しい昔ながらの雰囲気を残した街だった。それに、ここにも「喧騒」があった。人々が行き交い、とにかく声を掛けてくる。

 

 

 

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 少し歩き疲れたので宿に帰った。2階にある部屋で荷物を整理し、宿のオーナーと少し話でもしようかと階下に降りると、日本語が聞こえてきた。声をかけると、世界一周中だという日本人女性2人組だった。せっかくなので昼ごはんでも食べようと、一緒に街を散策することになった。

 

 喧騒に包まれたフェズの旧市街は私を夢中にさせた。ここはマラケシュ以上に夢中になれたと言ってよかった。「ジャパニーズ?」「コンニチハ!。どこからともなく声がかかる。あてもなく歩き回り、時々土産物屋に入って店員との会話を楽しむ。そんなことを繰り返していると、あっという間に夕方になった。

 

 

 

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 宿のオーナーに、夕暮れ時は「マリーン朝の墓地」と呼ばれる、街を一望できる丘に行くといいと言われていた。私たちは旧市街の北にある、その丘に上ってみることにした。

 

 

 

 

 

 上るとはいっても少し坂道を歩くだけの、小さな丘だった。5分も歩くと、丘の頂上についた。頂上からは、眼下にあるフェズ旧市街が一望できた。

 

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 丘の頂上には昔の遺跡の残骸のようなものが、無造作に横たわっていた。ふと見ると、やんちゃそうな元少年たちがその遺跡の残骸の上に上って遊んでいた。カメラを持って彼らの方を見上げていると「こっちを撮ってくれよ!」とばかりにアピールしてきた。写真を撮ってあげると、「君もこっちへ来いよ」と笑いながら手招きをするではないかよし、小僧たちには負けんぞ、と少し岩に手をかけたが、思ったより掴むところがなく全く登れる気がしない。やんちゃ少年たちの中で、「ダサイなー」といった調子で、笑いが起きた。

 

 

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 7人ほどいた少年たちが降りてきて、少し話をした。といっても、彼らはモロッコの第二言語であるフランス語で話してくる。外国人と見て、フランス語なら話せるだろうと踏んだのかもしれない。だが、申し訳ない。こっちは外国語といえば英語しかできないのだ

 

 

 

 

 

 

 ジェスチャーでの会話が始まった。聞くと、彼らはサッカー少年団の仲間たちのようだ。なるほど、身体能力が高くスイスイ上れるわけだサッカー経験のある自らを棚に上げて、妙に納得してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年たち一人一人が自らのことを指差して、何か口々に言い始めた。どうやら、自己紹介が始まったらしい。私も同じように自らを指差し、「Ryoだ」と答えた。最初は「リョ?」「リオ?」など、よく分からないといった表情を浮かべていた。すると、「Leo(リオネル・メッシ)だ!」と一人が言った。すかさず、"Leo! Leo!"とコールが起こった私も調子に乗って、メッシ風にサッカーのフェイントの真似事をしてみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度は一人の少年がカンフーのようなポーズをとり、「ジャッキー・チェン!」と私を指差して言った。もちろん、ジャッキー・チェンに似ているなんて生涯言われたことはない。おそらく彼らはジャッキー・チェン以外のアジアの有名人を知らないのだろう「メッシの方が良かったな」などと思いながら、カンフーポーズもとってみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく、彼ら会話や写真撮影を楽しんだ。日も暮れてきた。少年達もそろそろ帰ろうというような雰囲気になっていた。「日が暮れる前に帰る」はどの国の子供も同じなのかもしれない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ジャッキー!」帰り際、少年たちが私を呼んだ。結局、私の名前はジャッキーに決まったようだ。「どうした?」。すると彼らが少しだけ恥ずかしそうに手を差し出してきた。「小遣いをくれ」とでも言いたいのだろう。だけど全部で7人ほどいる。少しでもあげたらきりがなくなりそうだった。「ごめん、金がない」と首を振った。

 

 

 

 

 

 すると代わりにといった具合に、今度は私の頭にかけてあるサングラスを指差した。うーん。まあ楽しませてもらったし。それにちょうど新しいのを買おうと思っていたところだ。「やるよ」とサングラスをヒョイっと投げ渡すと、少年達の中で歓声が起こった

 

 

 

 

 

 今度私の持っていた帽子を指差してきた。調子にのるなよやんちゃボーイズ。「No!」と強く拒否した。すると彼らは「なんだよー」口々に言い、「ジャッキー!ジャッキー!」とカンフーポーズで回し蹴りの真似事をしながら、走って帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モロッコ人は本当に正直だし、それこそ「うざい」要素は見当たらなかった。「シュクラン!」(アラビア語で「ありがとう」)。走り去って行く彼らに向かって、私は叫んだ。

 

 

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