Day7 「It's a small world」

 

 

 昨日出会った2人はマラケシュへ向かうため、ここで別れることとなる。また一人での行動が始まる。他人と行動した後に一人になると、やや寂しさがあるのが正直なところだ。「まだまだだなあ」。なにが「まだまだ」なのかはよくわからないが、寂しさを打ち消すかのように呟いてみる。

 

 

 

 

 

 モロッコの通貨・ディルハムも余っていることだし、少し奮発してタクシーで空港へ向かうことにした。そう、今日は次の国へ向け移動するのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日からカメラの機嫌が悪かった。今日になって再度起動しようとすると、なんとも情けない音を立ながらもなんとか電源がついた。しかし、それで最後の力を使い果たしてしまったのか、その後は動かなくなってしまっていた。もしかしたら、砂漠の細かい砂が隙間に入り込んで、異常をきたしてしまったのかもしれない。旅は始まったばかりで、綺麗な写真を撮れなくなってしまうのが少し残念なような気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、こうも思う。このような旅をしていて、綺麗な写真を撮ることに意味はあるのだろうか。果たして私は、綺麗な写真を撮るために旅をしているのだろうか。きっと心の中に深く刻まれるのは、己の目で見た景色ではなかろうか。そう自分を慰めて、カメラをカバンの奥へそっとしまおうとした時だった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「カメラが故障したのか?」。宿の若いオーナーがカメラとにらめっこをする様子を見かねて、心配そうに声をかけてきた。あいにく、といった調子で答えると、「なんだもっと早く言ってくれれば、カメラの修理に詳しい知り合いを紹介したのに。かなりの腕で、それにすごく安く直してくれるぜ」。おっと、これはもったいないことをしたかもしれない。昨日のうちに相談していれば、その場で直してもらえたかもしれない。さきほどまでの格好をつけていた自分は何だったのだろうか...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タクシー乗り場までは、そのオーナーが見送りに来てくれた。途中、旧市街内を乗り場まで歩いていると、オーナーが前から来た人物と挨拶を交わし始めた。すると彼はこっちを振り向き、言った。「こいつがさっき言ったカメラの修理野郎だぜ」。陽気そうなそのカメラの「修理野郎」は、にこやかに私の方を見やり、「もっと早く言ってくれればよかったのに。次回は俺のところに持ってきてくれよな!」と、半ば真面目な調子で言った。冷静に考えると、またいつかフェズを訪れるという可能性は低いし、もし来れたとしても、手持ちのカメラがまた壊れることはほぼないだろう。世界はそんなに狭くはあるまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、いやもしかしたら、と私は考え直した。世界は案外狭いものなのかもしれない。いつかチャンスが来るかもしれない...。

 

 

 

「もちろん!」。私は威勢良く答え、もしそのチャンスが来た時のために彼の顔はしっかり覚えておこう、静かに思ったのだった...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次なる国。それは、イタリアだ。なぜイタリアなのか。正直、美しい建造物や町並み、イタリア料理にそそられたわけではない。やはり、人なのだ。イタリアの人に興味が湧いたのだった。陽気な人柄と、人生をより楽しんで生きようとする姿勢。固定観念にまみれた全くのイメージだったが、それを自らの目で見て、感じ、考えようと思ったのだ。フェズから、斜塔で有名なイタリアのピサという街へ飛んだ。そして、ピサから電車で1時間ほどのところにあるフィレンツェに到着したのは、夜の21時を回ろうかという頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィレンツェ駅すぐ近くの宿にチェックインし、夕食をとりに外へ出た。街を歩くと、そこはやはり、イタリアだった。少し暗めの街灯に照らされた建物が、厳かに通りを囲む。着飾った男女が、コツコツと靴音を奏でながら、颯爽と歩く。喧騒とは真逆の、きちんと整えられた空気が、そこには流れていた。

 

 

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 宿から徒歩数分の、居酒屋のような店へ入った。かなりの人気店のようで、席はほぼ埋まり、店内はBGMもかき消すほどの賑やかな話し声で満たされていた。一人客は他におらず、休日ということもあってか、皆家族や恋人と食事を楽しんでいるといった感じだ。店員は、まるでファッション雑誌の中から出てきたような、レザー調のセンスのいいジャケットに腰巻エプロンといういでたちだった。男女ともに耳にはピアスが光り、腕にはタトゥーが刻まれている。日本なら立派にモデルとしてやっていけそうな雰囲気の面々だった。これが、イタリアか。

 

 

 

 

 

 

 

 ビールと自家製ピザを、イタリア初日の夕食に選んだ。イスラム教国のモロッコでは一切酒を飲まなかったせいか、2杯ほどで酔いが回ってきた。赤ら顔のまま、酔いを醒まそうと軽く散歩してから宿へ戻った。

 

 

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 ドミトリーの同部屋は、ともに2人の韓国人だった。私より少し年下の女の子と、ドイツに留学中だというメガネの理系男子学生。「彼女はいるの?」「今のアルバイトがね…」「そろそろ就職活動が…」。彼らとの話は、まるで日本人と会話しているような内容だった。

 

 

 

 

 きっと彼らも、そして何を隠そうこの私自身が、この異世界の中の狭い相部屋に急にできた、「馴染みの世界」の居心地が良いと感じたのだろう。私たちは、時計の針がてっぺんを越えてもなお、話し続けた...。