Day8 「青い春」

 

 

 モロッコから続いた移動で疲れが溜まっていたのか、目を覚ますと9時を過ぎていた。起きあがり横を見ると、昨夜の女の子の方はすでにきっちり支度を済ませ、もう出掛けようかというところだった。ふと2段ベッドの上段にいる理系男子をみると、彼は私と同様に寝癖をしっかりつけ、まだ目が開いていないような状態でベッドの上にいる。準備の整った女の子を横目に、「まったく俺たちってやつは」といった感じでお互い顔を見合わせ、自虐的に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと支度をし、いざ街へ繰り出そうとベッドから立ち上がると、「僕もついていっていい?」と理系男子が声をかけてきた。彼は夜中発の夜行バスで、ローマへ向かう。今日は1日なにも予定がないのだという。「じゃあいこうか」。電気を消して、2人で部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 春の陽気のフィレンツェは、清々しい空気で満たされていた。彼はシンホと名乗った。ソウル出身で、留学先のドイツ・ミュンヘンの大学で人工知能について研究しているのだという。私より一つ年上の彼とは、いろいろなジャンルの話をした。文化の違い、政治、経済、スポーツ、そして恋愛に至るまで。東洋人ということもあり、英語レベルが同程度なのも話しやすい。どこに向かうということもなく、会話を楽しみながらフィレンツェの街をただただ歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の研究分野についての話になった。実は私も少しプログラミングをかじっている。私たちはお互いの学ぶプログラミング言語について、息子を自慢するかのような調子で披露しあった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、話は未来のことになる。私たちは希望に満ちた表情で、互いの夢を語り合った。励ましあった。フィレンツェという、物語のような街並みの中で

 

 

 

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 私たちは歩き続けた。13時半をまわった頃、少し遅めの昼食をとった。昼食後も歩いた。だが、次第にネタが尽きてくる。それでも無言で歩き続けた。曲がり角に着くと、「こっち行く?」とお互い声にも出さずに目で合図を送り、またその道を歩く。そんなことを何度も繰り返した。無言でただ歩くことを苦と感じなかった。いやむしろかなり心地がよかったのだ。それは、フィレンツェという街の美しさゆえなのか、この韓国人理系学生とだからなのか…。答えは別にどちらでもいいような気がした。

 

 

 

 

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 私たちにしては少し背伸びをしたレストランで、赤ワインとパスタという夕食をとった。22時頃、私たちは宿へ帰った。私はこのままこの宿にとどまり、シンホは宿に置いてあった荷物を持ってローマ行きのバスに向かう。

 

 

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 別れの時。宿の玄関口のところで、私たちは別れの挨拶をして固い握手を交わした。たった1日過ごしただけなのに、まるで長年の付き合いの同志のような感じがした。そんな彼とは、もう二度と会えないかもしれない

 

 

 

 

 

 だが、希望に満ちていた青い頃に、フィレンツェという街でお互いの夢を語り合い、どこか通じ合うように無言で歩き続けたという事実は、私たちの心に残り続けるに違いはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつの日か、青春を思い出す。そのために、私たちは旅をしているのかもしれなかった。

 

 

 

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