Day14 「線を越えて」

 

 

 普段、ドミトリーでは最も遅くまで寝ているのを競うほどの私であるのだが、今日に限っては一番早くに起きだした。2段ベッドが計6つあるその部屋には、他に2人の旅行者が泊まっていた。昨晩遅くに到着した韓国人女性は、夜中1時ごろまで共有スペースで韓国の友人と電話をしていた。もう一人、英語訛りの強いフィンランド人の若者に至っては、昨晩スプリトに住む友達のところに行くと言っていつ帰ってきたのかもわからなかった。

 

 

 

私がまさに出発しようとすると、そのフィンランド人が突然ぬくっと起き出して、「次はどこへ行くんだ」と訛りの強い英語で聞いてきた。「ボスニアだよ」と答えると「それはよかった」と言って、またベッドに横になった。なんとも面白い人である。

 

 

 

 

 

 宿のオーナーに鍵を返そうとしたが、受付にオーナーが見当たらなかった。まだ宿泊費も払っていなかった。さて、どこへ行ってしまったんだろう。先ほど部屋の外で足音が聞こえたし、まだ起きていないということはないはずだった。8時発のバスの時刻が迫っていた。

 

 

5分待ってもオーナーは現れない。いよいよ焦りが芽生えてきた。すると、玄関の方で何やら音がする。耳をすますと、誰かがドアをノックしている。旅行者が到着したのだろうか。けれど、オーナーがいなくては対応ができない。

 

 

 

 

 

 

ノックは続いた。恐る恐る扉を開けると、そこにはおっとりした笑顔の宿のオーナーがいた。「鍵を忘れて出かけてしまったんだ」と頭を掻き苦笑しながら言う。

 

スプリトに来てくれてありがとう」。お茶目な一面のあるオーナーだが、非常に親切な人だった。もし、イタリアでフェリーに乗り遅れていたらこの出会いもなかったかもしれないと思うと、その幸運に少し感動を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 ボスニアヘルツェゴビナモスタル行きのバスに乗るため、バスターミナルへ向かった。

 

 

ターミナルでバスを待っていると、横に欧米人のバックパッカー風の男がやって来た。50リットルほどのバックパックを横に転がしその上に座り込む。そういえばヨーロッパにきてから、欧米のこうした類の旅行者を見ていなかったな。ヨーロッパ人にとっては、この美しい街並みも感動を覚えないのかもしれない。あるいは、彼は南米かそこらから来ている旅行者なのかもしれないが。

 

 

 

バスは定刻の15分前には到着し、定刻通り出発した。海を隔ててこうも違うのか。見習え、イタリア人よ。

 

 

 

モロッコで12時間バスを経験していると、4時間程度なんてほんの一瞬に感じられる。

 

 

 

 

 国境の検問所に着いた。EUのシェンゲン圏加盟国間をバスで国境越えしたことはあるが、パスポートを預けてスタンプを押す国境越えは初めてだった。少し緊張感が走る。

ユーゴスラビアと聞くと、殺風景で曇った空、人々はどこかを睨みつけたような無表情で土埃を被った服をまとって歩いている。そんなイメージだった。だが、周りを見ていると、男女ともに笑顔で、スカーフなんか巻いたりおしゃれで華やかな人が多かった。

 

 

 

特に大きな問題もなく、国境越えに成功した。国境を越えるとすぐに、車窓に尖塔のあるモスクが見えた。国境という線を越えて、信仰される宗教が変わったのだった。

 

 

 

 

 

 

風情ある佇まいで有名なボスニア中部の都市・モスタルに到着した。旧ユーゴ独特の廃墟感のある駅前でバスを降りた。日曜だからか、人通りもまばらである。羊肉を焼く煙たい匂いが、ここがイスラム教国であることを示す。明るい雰囲気のイタリア・クロアチアとは大きく異なる、どこか暗い雰囲気。なじみのない国でもあるせいか、不安な気持ちが増してくる。

 

 

 

 

宿に向かった。閑散期ということもあり、その日は貸し切りだった。兄弟とその母親が経営する、小さなホステルだった。

 

 

 

 

 

 東洋と西洋の文化の狭間。オリエンタルな街並み。ムスリムの観光客も目立った。街には物乞いの姿が多かった。この旅では初めてのジプシーにも遭遇した。ここはやはり、イタリアやクロアチアとは違う。

 

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移動の疲れもあるのだろう。外で軽くビールを飲み、この日は早めに寝床に入った。